大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1242号・昭56年(ネ)2727号 判決

被控訴人が本件事故のため右手第二、第三指を第二関節から切断、亡失したことは前述したとおりであり、労働者災害補償保険法施行規則別表第一に照らすと、これは同表にいう第九級の後遺障害に該当することが認められる。また、原審における控訴会社代表者、被控訴人本人の各尋問の結果によれば、被控訴人は本件事故当時、四四歳の女性であって、夫との間には四人の子があり、本件事故当時はいわゆるパートタイマーのプレス工として控訴会社に勤務するかたわら、主婦として家事に従事していたことが認められ、以上の事実に鑑みると、被控訴人は本件事故のときから六七歳まで少くともあと二三年間は稼働できるところ、前記後遺障害のためその労働能力の三五パーセントを喪失したとみるのが相当である。

そこで、このために生じた損害について検討するに、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一、第二号証によれば、被控訴人は控訴人から本件事故前の昭和五〇年四月から同五一年三月までの一年間に二一二日勤務して合計七一万〇、二三六円の賃金の支給を受けていることが認められ、これに、一般の勤労者は休日を除いて年間およそ三〇〇日稼働するとみられることを合わせ考えると、被控訴人は本件事故当時、その全勤労時間のうち三分の二を控訴会社でのプレス作業に、残りの三分の一を家事に当てていたものと推認することができる。つまり、被控訴人が控訴人から支給を受けた右賃金七一万〇、二三六円はその全勤労時間の三分の二に相当するわけであるから、被控訴人が当時、その全勤労時間を右プレス作業に当てていたと仮定した場合、控訴人から支給を受ける賃金はこれに一・五倍した金一〇六万五、三五四円(円未満切捨)ということになる。そこで、これを当時の被控訴人の年収として、被控訴人が喪失した労働能力の度合及び将来の稼働可能期間をもとに、ホフマン式計算法(係数は一五・〇四五)により年五分の割合による中間利息を控除して右稼働可能期間中における被控訴人の得べかりし利益の本件事故当時の現価を算出すると、次のとおり金五六〇万九、八七四円(円未満切捨)である。

(算式)

1,065,354×35/100×15,045=5,609,874

ところで、被控訴人は、本件事故当時、被控訴人は控訴会社でプレス作業に従事し、年間その主張の額の賃金の支給を受けていたほか、家事にも従事していたのであるから、全女子労働者の平均収入程度を得ていたものとみるべきである、と主張する。しかしながら、損害賠償制度は、元来、被害者が現実に蒙った損害を填補することを目的とするのであるから、被害者の労働能力の喪失・減退による逸失利益を算定するに当っても、その計算の基礎となる資料や計算方式はより現実に近いものを採用するのが制度の趣旨にそう所以である。このような見地に立って考えると、本件事故当時、被控訴人が右主張のような稼働状況にあったことから直ちに、全女子労働者の平均収入程度を得ていたとするのはいささか飛躍した見解というほかなく、本件においては、前述したような計算も可能であり、この方がより現実に近いといえるから、被控訴人の右主張は採用しない。

(岡垣 大塚 松岡)

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